【争点③】
サブリース契約に借地借家法32条1項が適用されるとしても、本件のように、契約に基づく建物の使用収益の開始前に、借地借家法32条1項に基づいて賃料の増減を求めることはできないのではないか。
【最高裁判所判決の要旨】
「借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求権は、賃貸借契約に基づく建物の使用収益が開始された後において、賃料の額が同項所定の経済事情の変動等より、又は近傍同種の建物の賃料の額に比較して不相当となったときに、将来に向かって賃料額の増減をもとめるものと解されるから、
賃貸借契約の当事者は、契約に基づく使用収益の開始前に、上記規定に基づいて当初賃料の額の増減を求めることはできない。」
【解説】
サブリース契約が賃貸借契約であり、かつ借地借家法32条1項が強行法規であることにより、当事者間の特約で同条項の適用を排除できないとしても、当事者間の公平性を欠いた不当な結論は許されるはずもありません。
本事案のように、サブリース会社が日本有数の大企業であり、そのサブリース会社からオーナーにサブリース契約を持ちかけたうえ、あたかも賃料が下がることが無いかのような賃料自動増額特約を結びながら、オフィス賃料の相場が下がると一転して借地借家法32条1項を持ち出して賃料減額請求を行うことに対しては、学界から借地借家法の趣旨に合致しないと指摘されてきました。
上記の判決は、このような
当事者間の公平性とこれに基づく
妥当な結論を導くために、借地借家法32条1項を、「賃貸借契約に基づく建物の使用収益が開始された後において…将来に向かって賃料額の増減をもとめるもの」と定義し、
使用収益前に賃料減額請求をする場合には同条項は適用されないという判断を下したものと考えられます。
この理論構成は、「賃料減額請求が認められるかどうか、認められるとして相当賃料額をいくらにするかは、諸般の事情を総合的に考慮して判断される。」とする前掲
最判H15.10.21や
最判H15.10.23と親和的なものであり、個別の事案を判断するにあたって参考になる事案であると言えます。
Point
・サブリース契約に借地借家法32条1項が適用されるとしても、契約に基づく建物の使用収益の開始前に、借地借家法32条1項に基づいて賃料の増減を求めることはできない