サブリース

日本におけるサブリースの歴史

日本におけるサブリースは貸しビル市場の発展により生み出された。
高度成長期の経済発展に沿う形で、多くの企業がホワイトカラー層の執務する事務所スペースを都心部に求め、これに応じる形で貸ビルが賃貸オフィススペースを提供した。
そして、貸しビルの供給増に伴い、需給バランスが調整される過程で、貸しビルを建設してもすぐには決まらない状況が生じることとなった。

このような環境において、ファーストテナント保証という商品が開発された。これは、貸しビルを建設する際、建築受託のために施工会社が一定期間内に最初の入居テナント誘致を保証する形で提供した商品である。しかし、テナントの誘致に失敗し、建設費を受領できない事例が散見されるようになると、本商品は市場から消えていった。
ファーストテナント保証を通じて、どのようなビルを建設すればテナント誘致に成功するかということに取組んでいたのが、ビルディング不動産株式会社(以下、ビルディング不動産)であった。

ビルディング不動産は1984年3月竣工の矢崎ホワイトビル(東京都港区)建設段階で、ビルオーナーよりビル経営の相談を受けた。1982年当時、ファーストテナント保証を提供していたビルディング不動産は、既に完成していた矢崎ホワイトビルの建築図面の変更を条件に、ファーストテナントだけでなく、一括借上によるビル経営サービスを提供した。これが貸ビルに於ける最初の「サブリース」契約であった。また、建設費用を賄うための建設協力金という名目の預託金をテナントが負担する方式が活用されるなど、テナントは貸しビル入居のために負担する預託金が高額である状況があった。ビルディング不動産は、中小オフィスビルの運営受託を通じ、高額な保証金を中小企業が負担できる低水準で提供する仕組みを構築していた。

サブリース第1号の矢崎ホワイトビルの運営に成功したビルディング不動産は、「サブリース」商品を広告展開した。その後、不動産各社がサブリース事業に参入するなか、株式会社電通の調査により、「サブリース」という言葉を最初に新聞雑誌等に使用した企業がビルディング不動産であることが判明した。電通は、他社の営業案内を制作するにあたり、「サブリース」という言葉を使用して良いか、という確認を求めた。ビルディング不動産はサブリース事業の発展のため用語の権利を主張せず、他社の使用を許諾したため、「サブリース」は一括借上事業を指す一般用語として定着するに至った。また、事業としてのサブリースが、最初に日本経済新聞の記事に掲載されたのは1991年8月12日であり、それから3年間、サブリースの記事は、貸ビル21件、定期借地権1件、空港ターミナル1件であった。ちなみに、1991年8月12日の記事はビルディング不動産に関する記事である。

なお、第1号サブリースから、一括借上の法律的性格は転貸条件付賃貸借契約であり、それは現在に至るまで相違ない。

バブル時期に大手上場不動産会社が続々と参入し、1990年の段階で三井不動産株式会社がトップシェアを占め、次いでビルディング不動産という状況にあったが、その後の1990年以降のバブル崩壊を通じて、各社はサブリース事業から退出した。また、バブル崩壊はそれまで戦後一貫して右肩上がりであった賃料相場の下落を招いたため、一部のサブリースビルにおいて、ビルオーナーとサブリース会社の賃料に関する争いが訴訟となり、最高裁で判断が下されることとなった。賃貸オフィスビルにおけるサブリース事業において、建築受託をするゼネコン等のサブリースは一般化せず、不動産運営に特化した企業がサブリース事業の主体であった点が賃貸住宅におけるサブリース事業と異なる。

なお、ビルディング不動産は2001年6月に特別精算を行い、サブリース事業はサブリース株式会社に営業譲渡により現在まで継続されている。

住宅におけるサブリース

株式会社レオパレス21、大東建託株式会社、東建コーポレーション株式会社などが現在もサブリース事業を行っているが、賃貸集合住宅建築受託とセットとなっている。また、バブル時期に投資用マンション販売とセットの借り上げ事業を拡大した株式会社マルコーは会社更生手続を経て、現在、株式会社アパマンショップホールディングス子会社にてサブリース事業を行っている。

なお、2009年12月14日、サブリース事業者協議会が設立された。これは、2012年5月1日現在76社の会員を擁し、賃貸住宅市場の整備・発展を図るため設立された公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)の下部組織であり、賃貸住宅事業を行う日管協会員のうち、サブリース事業を行う会員を対象とした組織である。また、国土交通省は、2011年12月1日に賃貸住宅管理業務の適正化を図るため賃貸住宅管理業者登録制度を制定し、サブリース事業者は当該制度の登録対象となっている。また、当該制度で規定されるサブリース契約は賃貸借契約であり、いわゆる家賃保証という形式を取らないものである。

海外におけるサブリース(sublease)

日本におけるサブリースが転貸条件付賃貸借契約であるところ、アメリカ合衆国におけるサブリースは又貸しという意味合いとなる。

オフィス等事業用途の事例では、当初賃借人が賃貸人よりサブリース(又貸し)許可を得て賃貸借契約を締結し、当該賃借人が賃借区画に過不足が生じた際、異なる第三者へ転貸する権利を得る。サブリース(又貸し)を成立させるべく、不動産仲介業者が賃借人兼転貸人と転借人間の契約調整を行うものである。

住宅の事例では、貸主の許可を得たうえで、賃借人が長期不在の期間を第三者に使用させる形の又貸しがあり、これは学生が長期休暇期間中不在の借家を第三者に貸し出すなどの例がある。subletの用語も使われる。

また、サブリース対象を不動産に限らず、又貸し全体を指す場合もある。

サブリース契約の仕組み

サブリースの本質は賃貸借であるため、借地借家法32条により賃料は増減する。この点に関しては、過去の裁判例において最高裁(2003年10月判決ほか)により明確に判断されている。

賃貸住宅建設請負とセットのサブリース契約は長期家賃保証という表現がされるが、これはあくまで賃料の「支払」を保証するものであり、賃料の「水準」を保証することは不可能である。なぜなら、サブリース(転貸条件付賃貸借)契約において、第三者への転貸賃料をもとにサブリース賃料が支払われる。転貸賃料は賃料相場に応じて変動するため、サブリース賃料の水準も賃貸市場により定まるためである。もし、相場を超過するサブリース賃料の支払を継続した場合、サブリース会社は破綻するため、賃料相場下落があった場合には、それに応じた水準のサブリース賃料となる。つまり、サブリース賃料は借地借家法に基づき賃料相場を基準に算定される。

一括借上、家賃保証、スーパーサブリースなど様々な名称のサブリース商品が存在するが、賃料算定が相場賃料とどのような関係にあるのかを把握することがサブリース契約を評価するうえで肝要である。

サブリース会社が破綻した場合の扱い

この場合、2つの要素があり、サブリース契約では借主の破綻、転貸借契約では貸主の破綻がある。借主が破綻した場合、所有者・賃貸人はサブリース契約を解除し、転借人を借主とする転貸借契約を承継する。この承継にあたり、転貸借契約は賃貸借契約となる。これにより、転借人の賃借権は保全されるものと考えられる。しかし、転借人がサブリース会社に預託した保証金・敷金等の承継は債権回収の問題となる。これは個々の状況により異なるが、一般的に、所有者・貸主においては借主からの債権回収(賃料等)の問題であり、テナント・転借人にとっては貸主からの債権回収(預託金等)の問題となり、それぞれは異なる対応が必要なため、具体的な対策等については、弁護士等に確認下さい。

所有者が破綻した場合の扱い

サブリース物件の所有者の破綻があった場合、サブリース契約における賃借権の対抗力の問題となる。サブリース物件の競売が成立した場合、サブリース契約における賃借権が、かかる競売申立に至った権利(抵当権等)に対し、対抗力があれば、サブリース会社はサブリース契約を継続できるため、テナントの転貸借契約も存続できる。サブリース契約に対抗力がなければ、転借人は6ヶ月の明渡し猶予期間を経て裁判所から退去命令を受けます。

賃借権の対抗力については、かかる賃借権による建物の引渡時期と、サブリース物件謄本の乙区権利の登記された時期の前後関係により、登記時点以前の引渡を受けていれば対抗力があるとされています。詳細は弁護士等に確認下さい。

マスターリース方式との違い

個人オーナーによる中小ビル経営商品としてのサブリースとは異なり、同じ転貸条件付賃貸借契約において、マスターリース方式と呼ばれる運営方式がある。これは、不動産証券化スキームを適用した不動産は倒産隔離のため所有者をペーパーカンパニーとするため、賃貸人の地位を代位する仕組みが必要となり、マスターリース方式の適用がある。ペーパーカンパニーに代わり、転貸条件付賃貸借契約に基づき、事業者が転貸人となることが本質であり、サブリース賃料は必ずしも、相場に基づく借上賃料を定めるものでなく、転貸収入に連動する形で算定する事例が見られる。

賃貸保証との関係

賃貸借契約の与信手段として、賃貸保証委託契約が存在している。これは入居者(賃借人)が保証会社に委託料を支払うことで保証委託を行い、同時に賃貸人と保証会社間で賃貸保証を行う。これにより、賃借人による賃料滞納が生じた場合、保証会社が賃貸人へ代位弁済を行い、保証人としての機能を果たすサービスである。このサービスは株式会社リプラス(2004年設立)が市場拡大に寄与したが、2008年に破綻しており、その後もいくつかの破綻事例を通じ、業界団体の設立など、健全化に向けた努力が進められている段階である。

このように賃貸保証の保証委託契約とサブリース(賃貸借)契約は全く異なるものであり、サブリース契約に保証委託契約を付加する含意は、サブリース会社に対する与信供与である。賃貸保証が連帯保証人がいないなど与信不足の賃借人の与信供与手段であったことに注目すれば、賃貸借契約に保証委託を付加することは決して標準的な形態でない点に留意すべきである。

Wikipedia日本版におけるサブリース記事の問題点

Wikipediaは有用なサービスであるものの、サブリースの記事に関しては以下のとおり不正確なうえ、誤解と混乱を極めており、留意されたい。

概要

  • ・ 「マスターリース」に言及があるが、その定義は本稿の通りである。
  • ・ 「サブリーサーに運営代行をフィーを支払って委託」とあるが、これはサブリースの定義として誤りである。業務委託契約と賃貸借契約は法律関係が全く異なるものである。
  • ・ 「一括借上」は以下の部分で誤解がある。
  • ・ 「不動産会社から一定の保証金(賃料の80% - 90%程度)を得るという仕組み」という記載があるが、不動産会社からオーナーに支払われるものは賃料であり、保証金ではない。なお、賃貸借契約において保証金とは、賃借権に対する与信担保として賃借人より賃貸人へ提供される預託金を意味する。
  • ・ 「大手不動産会社のほとんどが、このシステムを導入」とあるが、一般に言われる上場大手不動産会社は、サブリース事業から撤退しているため、正確な表現ではない。

オーナーにおけるメリット

  • ・ 「空室があっても空室分も保証され、オーナーに支払われる」とあるが、空室分を含めサブリース会社に賃貸することで賃料収入が得られるものである。保証委託契約と混同している。
  • ・ 「賃借人の原状回復は不動産会社または提携・管轄する管理会社側が責任を持つ」とあるが、「責任を持つ」という記述の意味合いが不明確である。この点、民法規定により建物の修繕義務は所有者が負担するため、最終的な費用負担をするのは所有者となる。

一括借上における問題点

  • ・ 「一括借り上げの条件として不動産会社が指定した建物を建築する必要がある」とあるが、既存建物の一括借上なども存在する以上、一般化した記述は事実と異なる。
  • ・ 「建物管理、修繕などについて不動産会社が指定した業者、仕様となる場合がある」とあるが、指定業者・仕様が問題点となるかは不動産会社次第である。
  • ・ 「転借人の審査は不動産会社が行うため、外国人など生活習慣の違う賃借人が入居すると地域住民とトラブルとなる場合がある」とあるが、前後の脈略が不整合で、後半のトラブルはサブリースの問題点ではない。サブリース会社は円滑な運営に向けてむしろこのようなトラブルを避けようとする。そのため、前段の「審査は不動産会社が行う」ことは問題点とるかは不動産会社次第である。
  • ・ 「賃料は必ずしも長期間一定ではない」とあるが、賃料相場次第であり、過去の推移によれば長期間一定ではないのは事実であるが、サブリースの問題点でなく、不動産賃貸事業の問題点に過ぎない。
  • ・ 「オーナーが不動産会社から受け取る金額は賃借人が支払った賃料から不動産会社の手数料、管理費などを差し引いた金額を保証賃料として、一定金額を支払う」とあるが、日本語として不正確であることはさておき、サブリース契約による賃料は保証賃料とは限らない。まず、サブリース契約は転借人との転貸借契約締結に先立って締結され、その時点で相場に応じた借上賃料が決定される。従って、このような説明の賃料は、管理業務委託による委託手数料等を控除した後のテナント賃料支払の方法を記載しているものであり、サブリース賃料の説明ではない。
  • ・ 「建物が竣工して引き渡された当初の2 - 3か月間は家賃収入が不安定であることから募集期間とされ」とあるが、募集期間は物件ごとに異なる。
  • ・ 「現実的には値上げ、値下げともによほど大規模の物件でない限り裁判の費用対効果を考慮すると双方にメリットが無く、貸主、借主協議の上で据え置きとなるケースも多い」とあるが、具体的にどのような実例をもとに「据置となるケースも多い」と記載したのか不明であるが、「賃料は必ずしも長期間一定ではない」ことの説明としては矛盾しており、記事作成意図に混乱が見られる。

注記:本稿はあくまで当社見解であり、法律判断等についての責務を負うことはできません。

以上
2012年9月10日
サブリース株式会社